休眠NPO法人調査について

いわゆる「休眠状態」にあるNPO法人の実態調査

休眠NPO法人という言葉を耳にしたことはありますか?

 

NPO法人には毎事業年度が終了してから3ヶ月以内に「事業報告書」等を所轄庁に提出する義務があるのですが、これを怠っているNPO法人のことです。
このようなNPO法人は組織的な活動をほとんど行っていないところが多く、そこから「休眠」という俗称がついたのではないかと考えられます。

 

さて、このような活動実体のないNPO法人が反社会的勢力に利用されそうになった件が福岡県で発生したのは記憶に新しいところです。
実際には悪用される寸前で事が発覚したようで、結果として大事には至らなかったようですが、これをきっかけに休眠状態のNPO法人を放置している現状に対する危機感が膨れ上がりました。
以下、毎日新聞2018年11月27日の記事から引用してみます。

 

休眠状態の特定非営利活動法人(NPO法人)が放置されている問題で、超党派の国会議員約140人で作るNPO議員連盟は27日、総会を開き議論を始めた。毎日新聞の報道を受けたもので、議連事務局によると、このテーマでの本格的な論議は初めて。

 

140人もの国会議員が集まり、議論がされたとのことです。
その内容に関しても、「事業報告書の記載がずさんである」とか「そもそも報告書を提出していない」と言った現状を批判する内容だったようです。

 

そのような批判は、NPO法人業務の元締めである内閣府に向かうのは想像に難くないです。

 

「内閣府は何をやっているのか」「ちゃんと監督しないから」「そもそも認証取り消しをしていないのか」
こういった意見が多数寄せられたのではないでしょうか。
ついに平成31年4月16日内閣府から『いわゆる「休眠状態」にあるNPO法人の実態調査結果について』というタイトルの報告書が上がることになったのです。

 

前置きが長くなってしまいましたが、そろそろ報告結果を見ていくことにします。

 

事業報告書を出していないNPO法人

 

まずは・・・
事業報告書を提出していない期間が、まだ3年未満である法人は計6791法人で、調査時点では全体の13.1%にあたるようです。
さらに、その未提出の期間が長くなって、3年以上になっている法人は計1273法人で、全体の2.5%だそうです。

 

このような報告書未提出の法人の理事又は監事は20万円以下の過料に処するという罰則規定がありますが、実際に裁判所への過料事件の通知を行った所轄庁が全61庁のうち31庁あり、のべ317法人が裁判所に通知されています。過料の対象となりうる法人の数に対して実際に通知された件数は少ないですが、この結果から少なくとも「実際に通知されうる」ということがわかりますし、このような調査結果が公表されたということは、今後はより厳格に罰則を適用する流れになるのではないかと考えられます。

 

また、事業報告書等を3年以上に渡って未提出にしている団体の認証を、所轄庁は取り消すことができます。
今回の調査結果からすると、1273法人は認証取り消しの対象です。
あくまで、「取り消すことができる」のであって、「取り消さなければならない」ではないので、未提出が3年以上になった法人でも認証が取り消されていない法人は多いです。
平成24年以降で、3年以上にわたり事業報告書等を提出しなかったことで認証取り消しになった法人は2127法人で、56の所轄庁がその処分を行ったが、11の所轄庁では認証取り消しをおこなったことがなかったとされています。
今回、このような形で11の所轄庁が認証取り消しをしていないことが露見しているので、これらの所轄庁が認証を取り消していない法人で再び騒動が起こるようであれば「またか!どうして所轄はそういう法人を放置するんだ」という風向きになるのは想像に難くなく、予防線としてこれらの所轄庁が認証取り消しを始めても不思議ではない流れです。

 

事業報告書を出してはいるが、活動実態が不明瞭とされる法人

 

ここまでは事業報告書を出していない法人を見ていましたが、今回の調査はそれだけではなく「活動実態が不明瞭」という判断基準でも調査を行っています。
具体的に言うと、事業報告書で「活動実績なし」「支出ゼロ」等の記載がある場合を指しているようです。
要は、「形式的に書類だけ出しゃいいってもんじゃないよ」という趣旨だと考えられます。
そりゃそうですよね。
しっかりと活動して、しっかり報告するというのがあるべき姿であるのは間違いありません。
ラクしようと思って、形だけ事業報告書を作って内容がスカスカだと、ひょっとするとすでに所轄庁からマークされているかもしれませんね・・・

 

極めて個人的な見解まとめ

 

・今回の調査で内閣府は罰則対象となっているNPO法人の数と割合を把握し、それに対する裁判所への通知件数も把握した(おそらく、非常に少ないという認識で)。

・認証の取消対象となっている法人が少なくとも1273法人存在して、それらに対して認証を取り消したことがない11所轄庁があることを把握した(おそらく、適切に取り消しを行うことを促すために)

 

あくまで個人的感想ですが、今回の調査で内閣府は休眠状態のNPO法人と所轄庁に対して「しっかり見てるから、あまりいい加減なことしないように」というメッセージを発していると感じました。
今後はそのメッセージを受けて、罰則等を厳格に適応する所轄庁もふえてくるかもしれません。
そもそもNPO法人はそういった行政からの監視によらなくとも、市民の自由な活動と市民自身の監視によってなりたつことを想定している側面があります。
所轄からの罰があるなしにかかわらず、適切な活動と適切な報告が促進されることが望ましいですね。

 

 

 

・・・というようなことを書いていたのですが、予想が現実になってしまいました。

 

これまで認証の取り消しをしていなかった北九州市が今年ついに認証の取り消しを始めたのです。
http://www.kirakirakitaq.jp/detail_news.php?ID=283

 

現在のところ、まだ8法人しか認証取り消しになっていませんが、これらの法人と同様に事業報告書等の提出を怠っているNPO法人はどんどん認証取り消しになっていくと考えられます。
また、和歌山県も北九州市と同様に今年から取り消しを開始し、山梨県は認証取り消しの取扱要領を策定しました。

 

このような事態が拡大していくことで懸念されるのが 「 役員の欠格事由 」です。特定非営利活動促進法第20条を見てみます。

 

(役員の欠格事由)

第二十条 次の各号のいずれかに該当する者は、特定非営利活動法人の役員になることができない。
六 第四十三条の規定により設立の認証を取り消された特定非営利活動法人の解散当時の役員で、設立の認証を取り消された日から二年を経過しない者

 

認証取り消しによる解散時の役員であった人は、以降2年間はNPO法人の役員になることができません。
「いやいや、役員になれないも何も、そもそも法人がなくなったんだから関係ないでしょ?」
そう思う方もいらっしゃるかもしれませんね。

 

ただ、NPO法人の役員をする方には、複数のNPO法人の役員を兼任している方も少なくないのです。
そのうちの一つが認証を取り消された場合、他方のNPO法人でも最早役員をすることができなくなります。

 

最悪のケースは、本人がそれに気づいていないケースです。
名前を貸しただけのような状態で実際に法人業務をほとんど行っていない役員にありがちなのですが、認証が取り消されたことにすら気づいておらず、他の法人で違法状態を継続することがあるのです。
その法人にとっては完全にトバッチリなのですが、それでも違法は違法です。
もし、あなたのNPO法人の役員に、他の法人の役員を兼務している顔の広い方がいたら、一度確認をしておくことをお勧めいたします。

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